これまで絵や画材について学んできて耐久性の強い絵を作るにはどうすれば良いのか考えてきた。
長い年月における経年劣化を抑える保存環境の良し悪しが絵を長持ちさせるには最も重要なのだが製作者側としてはこればかりは自分で所有保管するのでなければ所有者任せの人任せとなってしまう。
となると製作者としてはどんな悪環境に晒される可能性があったとしてもある程度は耐え得る様に作っておきたいというのは作品を分身の様に考える人も多い作り手としての心情でもあろう。
その場合材料の選定や使用法が重要でこの問題にある一つの結論を出すとすると、描画用ニス及び仕上げ用ニスにおいて硬質でかつ柔軟性のあるメディウムを顔料を完全にコーティングする位の多い量を使用する事、顔料をなるべく耐光性・耐候性の強い物を選ぶ事、描く基盤となる紙やキャンバス等の支持体を硬質かつ膨張収縮の少ない物を採用する事が重要だと考える。
一つめのメディウムに関しては、メディウムが少ないと顔料が外気に晒されると劣化しやすくなったりするのを防ぐ為そして絵の層を作る絵具の皮膜を厚く丈夫な物にして乾燥経過や経年劣化による変化に耐え得る為に良い材質の選択や適切な使用量が肝要となる。基本的にメディウムの量が多いと耐久性は強くなるが多過ぎると良くない変化を起こす物もあるのでその様な意味で適量が必要になる。
二つめの顔料に関しては光や有害な大気や湿気などの水分に対する言ってみれば色の寿命であり自然の土や金属から作られた顔料はとても強い物が多く最近の化学成分から合成された顔料も強い物が多い物が増えてきてはいるので極端に弱い物はよほど色の好みでない限り選ばない方が良い。
三つめに関してはまず単純に柔らかい紙より硬いキャンバスや木の板の方が外部からの力や衝撃に強いからという事である。自然に起きる経年劣化で言えば良い材質の紙や絹等の薄い物でも堅牢な物は多い。木の板や金属の板(又は石板や壁)等が外の力に対して最も頑丈ではあるが湿気や腐食の影響を受けやすいのでそれらの影響が比較的少ないキャンバスの方が好まれる事も多い。劣化という事だけを考えるなら半永久的に劣化が起きないであろうアクリル樹脂等のプラスチックの支持体が最も強いかもしれないが絵具の支持体(の気孔と呼ばれる小さい穴)への食いつきは無いので付着力の強力な絵具の使用のみに限られるとは思われるがこの素材はまだ歴史が浅いのでこれから経過を見る必要がある。
死後発見されたゴッホの作品がどこかの家の雨除けとして穴を塞ぐ板切れとしてキャンバスが使用されてなお致命的な被害を被っていなかったのは同時代の他の印象派の絵に劣化が多く見られたのに比してゴッホの絵が分厚い絵具(+厚塗り用のメディウムを使用していた可能性という説)で顔料やキャンバスをしっかりコーティングしていたからではないかとという逸話を聞く。かたや薄く顔料に比して多いメディウムを使用していたであろうヤン・ファン・エイクに代表される西洋古典の画家による絵画も比類無い耐久性により数百年を耐えた実績を持つ。
これらの過去の事例や近年の化学的技術から耐久性の強い絵作りを類推する事はある程度は可能となる。