油絵具はチューブ絵具が広く発売される様になる19世紀以前は工房において画家やその弟子達によって自らの手で練られて作られていた。
19世紀〜現代においては工場において様々な品質チェックをされながら三本円筒型練機(ロールミル)と呼ばれる機械やその他の設備やテクノロジーを用いながら製品として大量に量産されている。
正確なテクノロジーで品質においてこれ以上無い製品が技術者と機械によって作られているこの現代において絵具を手練りする意味はほとんど無いとも言える。
あえて手練りする理由があるとしたら、チューブ絵具発明以前の過去の巨匠のテクニックを追体験もしくは利用したい時か、既製品に無い規格外の絵具を自作したい時であろうか。知識と経験がある程度必要であるとしても。
油絵具を手練りで作るには、
顔料と展色材が必要となる。
顔料は近年では既に適切な大きさに細かく砕かれた製品が絵具メーカーにより発売されているので容易に手に入れる事が出来る。
展色材とはメディウムの事で顔料を包み込み定着させる液体の事である。メディウムとは油絵具で言えば乾性油や樹脂であり、水性絵具で言うと膠やアラビアゴムやアクリル樹脂等の事である。なおこの展色材に揮発・蒸発してしまう揮発性溶剤や水やアルコール類は含まない。
顔料と展色材のこの二つを用意したら次に練り合わせに使用する道具を用意する。
必要となるのは練り板と練り棒と加えて箆(へら)である。練り板は硬い石の物が良い。練り棒は古くは木や骨、現代ではガラスや陶磁の物が使われる。
練り板と練り棒が無ければ乳棒と乳鉢でも良い。
そして練り板の上で箆を使って軽く顔料と適切な量の展色材を混ぜ合わせ、次いで練り棒で30分程度練る。作る量が足りなかった場合は一旦練り終わった絵具は板の端に除けておいてまた新しく練る様にする。
ごく少量の絵具ならば箆を用いてパレット上で練り合わせる事も可能である。
乳鉢の場合は先に少し展色材を入れておいて顔料を少しずつ加えながら乳棒で練る。油性絵具で展色材が馴染みにくいアイボリーブラックやプルシャンブルーには少量のアルコールを加えると馴染みやすくなる。他に、水彩絵具を練る場合は顔料と水を軽くどろどろになる程度に混ぜ合わせてしばらくしてから上澄み液を取り除いて展色材と練り合わせる。オックスゴール(牛の胆汁)を少量加えると馴染みやすくなる。練り合わせた絵具を濃縮し脱水して型抜きすると固形水彩絵具になる。
顔料を充分に絵具として機能させる展色材の必要量(油絵具なら吸油量)を多過ぎず少な過ぎず適量に達するまで混ぜて絵具内部に気泡や展色材が浸透していない部分が無い様に練る事が絵具の耐久性の品質において肝要である。有機顔料の様な表面積の多い比重の軽い顔料ほど必要な展色材が多くなる。
もし練り合わせた絵具に練りの硬さや光沢や乾燥速度が足らない場合は樹脂や蝋や体質顔料や乾燥促進剤等を少量控えめに使用して調節する。
そして作り終えた絵具は瓶に密栓して保存する。なるべく早く使い切る方が好ましい。