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マースブラックについて

マルス又はマースブラックという絵具は酸化鉄で赤く覆われる火星の英名(Mars)に由来する。この黒色は他の黒色(象牙黒、ランプ黒等)に比べて若干赤紫寄りの色みを帯びる黒色であり、概ねどの種類の絵具でも乾くと明度が高めの艶の控えめな明るいフラットな黒色になる。

マルスブラックは酸化鉄を主成分とする酸化鉄系顔料であり、他の酸化鉄を主成分とする土性系顔料と同じ化学式のFeOを基本的な組成として持つ。アメリカやイギリスの色料の規格であるC.I.Name(カラーインデックス名)ではPigment BlackのPBk11(鉄黒)となる。顔料区分の分類では酸化鉄黒の合成無機顔料となる。製法は様々で化学合成により作られる。

絵具化した顔料の性質として、他の黒色絵具に比して、不透明で被覆力(下地を隠蔽する力)は強く着色力は適度に強く、乾燥の遅い油絵具においても他の黒色では乾燥が遅いのに対して乾燥性の良い絵具となる。耐光性(紫外線による色褪せに対する強度)や耐候性(熱や水分や有害な大気等による変色や破壊に対する強度)は全色において最高クラスの堅牢性であり、耐酸性や耐アルカリ性にも優れ、化学反応を起こしにくい不活性さを持つので他の色との混色制限も無く、毒性も無く、どの種類の絵具においても汎用的に広く使用されている。最も安価な部類の顔料及び絵具でもある。

描画の用途としては、不透明絵具としての使用に適している。高い不透明性(化学変化の少なさも相まって)で下地にも用いやすく、上塗りで下地を隠蔽して塗り潰す技法にも適している。他の黒の様な透明性を活かした陰影の為の黒という使用方法よりも、不透明性を活かして一つの固有色の黒として色面を作る使用に向いている黒だと考えられる。また油絵具の黒の中でも乾燥性が良いので、乾燥の遅い他の黒では出来ない大胆な厚さの塗りもしやすい。

深みのある黒色というよりシンプルにフラットな現代的な黒色の様にも感じられる。