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油彩画の寿命

油絵がどのくらいの年月自身を絵として保っていられるのか?

製法や用いられた絵具や画用液によってその長さに違いは出てくるが絵画の中では相当に長い部類に入るのはルネサンス期やそれ以前の中世に描かれた油彩画を見れば歴史が証明しているのは明らかである。もちろんそれらよりも速く朽ちてしまった絵も数多あるのだろうけど。

そしてある程度の耐久性を作品完成時に保持しているなら後は保存の環境が全てであると言って差し支えない。動物の寿命と同じで外部から有害な物質を体に摂取すれば本来持つ寿命がどんどん削れていく。絵にとってはそれは紫外線や湿気や有害な大気のガスや物理的な衝撃だったりする。

今現在残っている油彩勃興期の古い名画は六百年前後経過しているので元々の寿命は最低限それくらい保証されている。名匠の腕とそれを支えてきた環境もあるとして。

どの時点で寿命を迎えるのかを考えるのか。 剥離や亀裂等の絵の崩壊を容易にもたらす製法で描かれたものは省くとして、

まず第一段階の絵の崩壊として褪色を迎える可能性が高い。照明や太陽光の紫外線により顔料の色素が変化させられ色が褪せてしまう事である。これは天然・合成の有機顔料や蛍光顔料等の使用で速くなる傾向が高い(近年の工業製品の塗料に使用される合成有機顔料は強い傾向にある)。それに反して天然又は合成の無機顔料は褪色に強い耐光性を持つ物がとても多い。十八世紀前後以前の絵はこちらの顔料を主に使用して描かれている物が多い(後に絵に良くない顔料を使用していたという例もある)。絵具メーカーの紫外線照射の検査によると実際の生活上の照明環境に置き換えてその絵具がその色を保つ期間としておよそ十年〜百八十年とするほど各色に差がある。色が褪せてしまうとその絵の魅力が何割かは失われると感じられるかもしれない。褪色した顔料は元に戻す事は出来ないので修復で上描きすれば絵は生き返る(作者によるオリジナル性がもしかしたら少し失われるかもしれないが)。しかし褪色した忘れ去られた名画がある日突然発見され元の色を誰も知らなければもう元に戻らない可能性が高い。とはいえ発掘された古代の彫像は今でこそ寂れた無機質な色合いの見た目をしているが作られた当時はきらびやかな彩色を施されていてその彩色やその他装飾が削げ落ちてなお名品として現代でもその見た目とは裏腹に芸術品として輝いている様に、真の名画であるならばたとえ魅力の要素の一つの色彩を失ったとしても名画は名画たり得るのではないだろうか。仮にダ・ヴィンチの名画モナ・リザがさらに色褪せてもモナ・リザの素晴らしさは(デッサンや構図や創作意図など)が厳然と残るである様に。

であるならば、もし作品としての絵が完全に死に絶える時があるとしたら、それは絵具の層や紙やキャンバス等の支持体が崩壊する時であろう。文字通り物理的に自然又は人為的に破壊される時に。普通は製法に間違いが無く保存環境において何のトラブルも無ければ、褪色を迎え、絵具層の破壊を迎え、支持体が朽ちていくというのが順序となる。
油絵の絵具層の乾性油は乾燥する際に酸化しゆっくり液状から固体へと固化していき長い年月を経るうちにその柔軟性が失われつつ最後には硬くなり過ぎ外部からの衝撃もしくは自身の重力に耐えられなくなり亀裂・ひび割れを起こすと言われる。
そして支持体の木や紙や布又は金属等は自らは特に化学変化を起こさず自然に経年劣化するので絵具よりは永く耐久するだろうが物質である以上は腐蝕する運命である事には違いない(まだ時の経過という歴史の検証を受けていないので分からないがプラスチックはその限りでないかもしれないとして)。
この絵具層と支持体の二つは保存状態が良ければ千年かもしくはそれ以上保つ可能性は現存する古代の美術品を見るに高いと目される。
現代作品であれば作品の記録や保存の環境は科学の進歩により格段に良いので最高寿命だけで見ればもっと長くなるのは間違いない。もちろんそこには過去の名匠の様な腕を以ってしてなのかもしれないが。

最後に結論を導き出してみると、安価な印刷物で適当に扱えば数ヶ月〜数年で色褪せ折れたり破かれたりして駄目になる事もあるし、絵画でも数年でという事は大いにあり得る。適切な材料と製法、そして良い保存環境で丁寧に扱う事で、それらの年月を伸ばす事は可能である。油絵であるなら約数十年〜百数十年は最低保証として見る事が出来ると考えられる。