dorayakiBlog

油絵具の古典的技法と現代的技法について

油彩画における技法はその発祥から現代に至るまでの変遷において大きく分けて古典的技法と現代的技法とが存在する。

とはいえ基本的に質や種類の良し悪しはあれど、乾くと固まる性質のある植物性の油液である乾性油をベースに、色の素となる様々な成分の物質から精製された粉である顔料を溶き、油や樹脂等に強い溶解力があり揮発して無くなる性質のある揮発性溶剤を希釈剤として、必要であれば助剤として造膜補強や光沢を付与する樹脂や乾くのを速める乾燥促進剤等を加えて、使用する事は古くから概ね変わらない。

そして、

古典的技法として、
卵によるテンペラや石灰を利用したフレスコがまだ主流だった15世紀頃までのヨーロッパにて開発された油絵具による初期の使われ方は、鉛筆や木炭等の線画による厳密な線による下絵に、下絵の面ごとに不透明な薄い塗りを地塗りとして施し(対象の固有色を淡くした色もしくは白黒や暗褐色のモノトーンによる立体的なモデリングの下塗りを土台に上塗りする為に)、下地となる塗りが良く乾燥した後に薄い透明な塗りをその都度乾燥させながら何層も重ね塗りし(絵具層内で透過・反射する色光の重なりで色を作る)重色混色や(透明色の重ね塗りで暗くなっていく性質を利用し)陰影を付けていく画法である。
この技法は、その創出とされる15世紀頃のフランドル(ベルギー及びフランス北部)の画家ヤン・ファン・エイクらの絵画に代表される油絵の黎明期から15世紀前後にかけて起きた油絵具が絵画の主流となるダヴィンチやミケランジェロやラファエロらを輩出したルネサンス(文芸復興)を境に後の18世紀末期まで伝統的かつ本流の油絵の技法として扱われる。
絵具の扱いとしては、下地の塗りに乾燥の速い鉛白を混ぜ不透明な淡めの色にし乾燥の速くなる揮発性溶剤及び乾燥の速い乾性油の亜麻仁油(リンシードオイル)で下塗りをする。中塗り、上塗りに進むにつれ上層の絵具の下層の絵具の伸縮膨張に対する補強と透明性の高い塗りにしていく為に乾性油及び樹脂を加えていく(油分が増えていき乾燥が遅くなるので必要なら乾燥剤も応じて加える)。乾性油であれば透明性は高いのでどの乾性油でも古典的技法に使用出来るが(出来れば重ね塗るので乾燥の速い種類が良い)透明性の極めて高く粘性も高い重合加工した加工油(スタンドオイル)に同じく透明性の高い樹脂を少量加えた物が適している。
そして支持体つまり何に描くかとしては、木の板のパネルや木枠に張ってキャンバスにする(地塗り未処理の生地の)画布や厚紙に、膠液および白色塗料のジェッソを塗布し乾燥後に表面を平らに削る等の下処理をしてから描き始めるのが一般的である。
描画においては画用液を多めに使用し柔らかくした軟練りの絵具を用いその高い透明性で下描きを活かしながら描き進めるのが特徴的である。

そして15,16世紀に古典的技法が完成され後世に進むにつれ伝統的手法として保守的な画壇の画家に受け継がれていく一方で現代的技法への過程(というにはあまりに偉大な過程であるが)で17世紀の革新的な画家達により素早い製作やダイナミックかつ大きいサイズの画面作りの為にそれまでの手法と異なる厚塗りの技法が取り入れられていく。ルネサンスを経る中でヨーロッパの北方から南方に美術の潮流が移り変わり17世紀頃のバロック期の革新的な画家達の中にその傾向が見られる様になる。代表的な画家としてはレンブラントやルーベンスらがいる。それまでの静謐な画風の古典的技法に厚塗りの下描きや上塗り(透明性のある)を加えて流れる様な筆触で今にも動き出しそうな臨場感とダイナミズムをその写実性の中に与えた。そして19世紀に入りその技法的傾向がドラクロアやクールベやマネ及び印象派等の前衛的な画家達の間で頂点を極める。

そして現代的技法としては、
古典的技法では下絵の線に忠実に彩色していたのに対し、計画性よりもその時の直感性を芸術的に重視する為に柔軟に作画に修正・変更が効く様に不透明な厚い塗りで一回または数回の塗り重ねでの素早い製作手法が増える。とりわけ印象派以降〜20世紀においてはこちらが現代美術においては主流となる。
手法としては、屈折率の高い透明色の絵具でなく不透明な隠蔽力の強い絵具を使用する。または不透明性の高い白色絵具を混色のベースに使用する。透明色であっても厚塗りする事で透過性を減らして不透明色として使用する、等がある。
なので透明性を抑える為に油や樹脂を出来る限り加えず(加えて重ね塗りや完全乾燥による作品の完成を速める為に乾燥剤を加える等)チューブから捻り出したそのままの(または希釈剤として多少の揮発性溶剤を加えたり)硬い練りの絵具で描く手法が18世紀末期の革新的な前衛派の画家たちに多く採り入れられ現代に至る(保守的なアカデミーな画壇においては古典的技法は脈々と受け継がれていたものの)。
近年の現代アートにおいてはより速い製作の完成や絵具の扱い易さに応える為に速乾性・耐久性・透明度の多様さに優れるアクリル絵具が油絵具に代替する事も多くなっている様に見受けられ、同時にかつてはその時代の現代的技法を用いる革新派の画家達に凡庸・形骸化されたと見做された古典的技法も近年では見直され現代作品に積極的に採り入れられてもいる。なお今では油絵具の顔料やメディウムにおいても化学合成による着色力の強く色鮮やかな合成有機顔料やアクリル樹脂・アルキド樹脂等の合成樹脂が元々ある天然の物に加えて使用されている。