つや消しにする油絵具の油抜き

古い時代の手練りで油絵具を自作するのとは異なり、近現代のチューブに詰められ販売されている油絵具には、色の素となる顔料を固着材であるメディウムの乾性油で練り合わせて絵具として成形させる為に、最初から油が含まれている。

この油こそが油絵具を固着させる成分であり油絵具独自の光沢と透明感などの材質感をもたらす。

がしかしこの光沢や透明感を好まない人もいて、その為に油絵具の油を抜く絵描きもかつては存在した。
この技法は昭和に活躍した著名な日本の洋画家も実際に使用していた様である。この頃の日本の洋画(油絵等)の傾向から、印象派のパステル画の様なつや消しの明るい絵肌の絵画に影響を受けた、もしくは伝統的なつや消しの絵肌の日本画の影響を意識的にか無意識的にか残したと考えられる(ならば水性の絵具を使えば良いという本末転倒な気もするが油絵具の独特な描画性能を活かしつつその芸術的理想の実現を求めそして叶えたと解釈するとして)。ちなみに同じく油絵具を用いて明るい絵肌を作った印象派の画家達が油抜きをしたかは分からないが乾性油を加えずに揮発性油を多用した為に油分が少なくなったという説が有力で原理的には油抜きと同じ結果になった様である。

油抜きの方法としては、油絵具を吸収性の高い紙や陶片等にひねり出してしばらく置いて油が吸われぼそぼそ・ぱさぱさになった絵具をパレットナイフ等でかき集めてすくい取ってパレットに戻し使用する。吸わせた場所に油の染みが出来るので吸われている様子が分かりやすい。

油絵具からの油抜きの実例1
薄手のクロッキー用紙に置かれた油絵具。
下の紙に油の吸われた染みが見える。

油絵具からの油抜きの実例2
(左)油抜きした絵具 (右)通常の絵具
油分の多い有機顔料のキナクリドンレッド
見た通り光沢と透明感と発色が違う。

油絵具からの油抜きの実例3
(左)油抜きした絵具 (右)通常の絵具
つやが消えやすいアイボリーブラック
油が少ないので筆の伸び具合も異なる。

ただこの油を抜いた絵具をそのまま使用すると、抜いた分だけつや消しで不透明な材質感になるが、絵具を固着させる成分が少なく、パステルの様に顔料の粉末と少ないメディウムのみでかろうじて紙やキャンバス等の支持体の表面に固着している状態になるので定着力・耐久性がとても弱いものとなる。なので油抜きして使用する際には他の油や樹脂等のメディウムを再度加え耐久性を補強した方が良い。

この技法はつや消しの絵肌を作る為にでなく元々含まれる種類の油を置き換えたい場合に用いた方が良い様に考える。