油絵を始める時に揃えるべき道具は何が必要で、何にこだわっておいた方が良いのか。
・絵具
基本色相を数色〜二、三十色。
・画用液
揮発性油(テレピン or ペトロール) & (ペインティングオイル or 乾性油)。
・筆
平筆・フィルバート・丸筆・面相筆を合わせて数本〜十数本。
・パレットナイフ
描画用にペインティングナイフもあると良い。
・キャンバス
主に、画布は麻布と綿またはナイロン等、木枠は杉や桐、下地塗料は油性か水性の違いがある。
・イーゼル
室内画用 or 野外用、絵の大きさに合う物が良い。
・パレット
木製の物は丸型(オーバル、フランゼン等)か四角型があり四角型は二つ折りタイプがあり野外用に持ち運びしやすい。紙のペーパーパレットは後片付けしやすい。
・油つぼ
画用液入れ。必要な容量と筆を入れられる口の大きさの物を選ぶと良い。
・筆洗器
専用の物で筆置きと沈殿物が下層に分離される仕切りがある物が便利。無ければガラスの空き瓶でも代用可。
・洗浄液
描画用の溶剤より強力な溶剤。筆の汚れを根本から完全に落とし筆を長く使う為に必要。筆の水での手洗い用の石鹸もあると良い。
・仕上げ用ニス
完成用ニスは半年から一年経過して絵具が完全に乾燥したら塗る。スプレー式が便利。艶あり、半艶、艶消しと光沢を選べる。他に急な展示・持ち運び・完成までのほこり除け・加筆の際のひいてしまった光沢の艶出しの為の製作途中に塗るニスもある。
この辺りが油絵を描くのに最低限必要であろうか。あとは汚れるのを防ぐ為にエプロン、下に敷く敷物、筆の汚れを拭う紙切れや布切れ、使い終わった溶剤や絵具を拭った紙や布を水に入れて捨てる袋や入れ物。そして何かを見て描くならモチーフとなる物とそれを乗せる台など。
とりあえずこれらを揃えれば油絵を描くのに困らない。
とは言ってもそれぞれの道具においてどんな種類のどの程度の品質の物を揃えた方が良いかについては実際に揃える際には分からないかもしれない。
その中で特に最初からこだわった方が良い道具は、絵具、筆、キャンバスである。その他の道具は状況に応じて良い物を揃えても良いが標準品質の物を正しく使えばそこまで品質の良し悪しが絵の腕前や製作物の品質に大きく響くものでもない。モチーフに関しては自分の目指す絵に適した物を選ぶ必要がありこれに関しては個々人で異なる。
絵具とキャンバスは直接作品として残る物なので描きやすさや保存の面からも良い物を使用した方が良い。
画用液もその点では同じだが用いている油や樹脂等の素材は各社近しい物が多いのでメーカーによる差が少なく基本的に市販されてるペインティングオイルなら一般的な描画用として完璧に調合されているので問題は無い。描きやすさや絵肌に物足りなくなったら自作のペインティングオイルの素材を買い足し自分に合った調合油にカスタムすれば良い。
筆は作品に残るわけではないが(タッチは残るが)自分の腕または指の代わりに描画に使う物なので自在に動かせる物でないと腕にギプス等の手枷を付けて描いている様な物なので慎重に自身に合った物を選ぶ必要がある。
・絵具
絵具については値段の高い物が良いというのは間違っていないが正確でも無い。同じメーカーの同じブランドの絵具でも色によって安い絵具と高い絵具があり、絵具の値段は主に顔料の種類や質や量で決まり、化学元素の合成で作られる合成有機顔料や大量に採取しやすい天然無機顔料特に土性系顔料等の絵具は安価な物が多く、希少性や化学合成のコストの高い金属系の合成無機顔料の絵具は高価な物が多い。しかし無機顔料が良く有機顔料や土性系顔料が悪いというわけでなく用途によりその有用性が異なるというだけで製造コストの差でしか無い(耐光性・耐候性で土性系顔料 > 合成無機顔料 > 合成有機顔料、という差はあるにせよ)。
ただ他メーカーのブランドの同一の顔料の絵具と比べて値段の差がある場合はもしかしたら顔料の質や量に違いがある(かもしれない)とかつては言われていた。とはいえ、値段が安い物はコストを抑える為に顔料の量を減らし体質顔料などの充填材を加えているので効き(被覆力や着色力)が悪いと言われていたが、近年市販されている製品に関しては企業による厳密な品質チェックの下で製造されているので単に仕入れ価格や生産能力の差だとは思われる。なので絵具メーカーの(習作用でなく)専門家用と謳っている絵具であれば品質に問題は無い。海外製品は輸入にかかるコストや現地の生産コストの差のせいか分からないが若干高い製品が多い。
ただ同一メーカーでスタンダードのブランドの絵具のシリーズがある一方で高濃度高純度を謳ったハイエンドモデルのブランドの絵具のシリーズも発売されている事から値段により差がある事もまた事実である。国産の物で言えばホルベイン社のスタンダードブランドとヴェルネや油一のシリーズ、クサカベのスタンダードブランドとギルドやミノーのシリーズがある。
基本的に油絵は展色材(メディウム)となる画用液を加えて描くものであり油絵具には顔料と絵具として成形させる為の最低限の油分(又は+少量の粘度や乾燥を調整する樹脂や助剤)だけが含まれていて画用液をあまり使わずに描くと硬い練りの不透明で厚塗りの例えば印象派以降の現代的な絵画のタッチにしやすく、先に挙げたハイエンドモデルのシリーズの絵具では透明の薄塗り技法の古典技法にも対応すべく油分を多く含む柔らかい練りの絵具もあるのでその違いを知っておくと自分の描きたい絵に合わせた絵具選びが出来る。
実際に絵具を選ぶに当たりメーカーやブランドは上記を踏まえスタンダードタイプの絵具か古典的なタイプの絵具か自身の描きたい絵に適う物を選ぶとして(両者ともに加える画用液の量を調節すれば逆のタイプの使い方に近付ける事も出来る)、基本的にはどのメーカーの絵具でも良いと個人的には考える。多少使用顔料の種類に違いがあるので好みの色のあるブランドの絵具を選ぶのも良いし油絵具はアクリル絵具と異なり他メーカー他ブランドの絵具同士で混ぜる事が出来るので単一のメーカーの絵具にこだわる必要も無いので自由に選ぶ事が出来る。
そしておすすめの色の絵具を挙げるとすれば、
・白
シルバーホワイト (PW1 無機) 毒性あり
ジンクホワイト (PW4 無機)
チタニウムホワイト (PW6 無機)
パーマネントホワイト (PW6 無機)
セラミックホワイト (C.I.Name無し 無機)
・赤
カドミウムレッド (PR108 無機) 毒性あり
ピロールレッド (PR254 有機)
キナクリドンレッド (PV19 有機) 透明
・橙
カドミウムオレンジ (PR108 無機) 毒性あり
ピロールオレンジ (PO73 有機)
・黄色
カドミウムイエロー (PY37 無機) 毒性あり
ビスマスイエロー (PY184 無機)
・緑
ビリジアン (PG18 無機) 透明
コバルトグリーン (PG19 無機)
フタロシアニングリーン (PG36 有機) 透明
・青
セルリアンブルー (PB35 無機)
コバルトブルー (PB28 無機)
ウルトラマリンブルー (PB29 無機) シルバーホワイトとの混色制限あり 透明
プルシャンブルー (PB27 有機)
フタロシアニンブルー (PB15 有機) 透明
・紫
コバルトバイオレット (PV14,PV47 無機) 透明
コバルトバイオレットライト (C.I.Name無し 無機) 毒性あり 透明
ミネラルバイオレット (PV16 無機)
キナクリドンマゼンダ (PR122 有機) 透明
・茶
イエローオーカー (PY42,PY43 無機)
ライトレッド (PR101 無機)
バーントシェンナ (PBr7 無機)
バーントアンバー (PBr7 無機)
ローアンバー (PBr7 無機)
・黒
アイボリーブラック (PBk9 無機)
マルスブラック (PBr11 無機)
他にも良い色の絵具はあるがこの辺りの色の絵具があれば大体の色は混色で完璧では無いが擬似的に作る事が出来る(最近の新しい顔料の色や蛍光色やメタリック色等の特殊な色の絵具は除く)。ここに挙げた色の絵具は単一顔料による物なので複数の顔料の調色で作られて販売されている他の色の絵具は含まれる顔料が手持ちの単一顔料の絵具と同じなら混色で同程度の同じ色を作る事が出来るので基本的には単一顔料の色の絵具を揃えた方が費用は抑る事が出来る。絵具メーカーによっては名前が異なる物もあるがカラーインデックスネーム(C.I.Name)である顔料名を見れば何の顔料が使われているかは分かる。
白と黒以外では、合成有機顔料は透明度・着色力が高い傾向にあり彩度も高い物が多いので合成有機顔料の色を揃えると現代的なビビッド(鮮やか)な色使いの絵作りがしやすい。逆に天然無機および合成無機顔料を揃えると不透明色も多く着色力も控えめな傾向にあり彩度も極端に高くならず渋めな配色の絵作りに向いている。
白については古くから使われる乾燥の速い強い耐久性を持つ下塗り用のシルバーホワイトや上塗り用のジンクホワイト(下塗りで使うと剥離を起こす)を用いると白の中では透明性のある白なので繊細なタッチの描写が求められる写実的な古典的な絵作りに向いている。多少毒性があり長所短所がはっきりしているので扱いが難しくもある。チタニウムホワイトは着色力が高過ぎて扱いが難しいが毒性も無く高い不透明度による塗り潰しや平塗りをしやすいのでフラットで現代的な絵作りに向いている。その間を取って透明度や着色力も適度に毒性や混色制限も無い調整されたチタニウム顔料や新素材のセラミック顔料を用いたパーマネントホワイトやセラミックホワイトがあるので初心の頃はもちろん中・上級者になっても扱いやすい白もある。
黒に関しても先に挙げた黒の他にランプブラックやピーチブラック等あるが、透明性のある深い色味のアイボリーブラックと不透明でフラットでマットな明るい黒のマルスブラックがあれば陰影や闇の黒および固有色の色としての明るい黒どちらにも対応しやすいのでとりあえずこの使い分けでこの二色があれば良い。
・筆
油彩用の筆の選び方は、筆に使われる毛の種類で使い方が分かれるのでまずはその点から選ぶと良い。
一般的には豚の毛である豚毛の筆がよく使われる。特徴としては、豚毛の色により穂先が飴色の様な白色で、ブラシの様な毛の硬さと弾力性を併せ持つ。硬く弾力があるので油絵具の硬い練りを扱うのに適している。
豚毛は硬毛と呼ばれその他に軟毛と呼ばれる毛の種類の筆もある。主に高級素材であるコリンスキー(イタチ)がその代表として名高い。とても柔らかくしなやかな弾力性と絵具の含みの良さで液状のメディウムをたっぷり含ませた柔らかい練りの絵具での平塗りや薄塗りに適している。
メディウムも多めに使用するがインパストの様な硬い練りでの厚塗りもするなら中間の毛の硬さの中硬毛の筆を使用すると硬さのある絵具も扱えて同時に軟毛の持つタッチの柔らかさや繊細さも出せる。たぬきやアライグマ等の毛がよく用いられるが近年は頭数減少の為に代替の人工毛またはその混合の物に置き換わっている。
そして先に挙げた動物の毛である獣毛以外に合成繊維である合成毛の筆もある。ナイロンやポリエステルがよく用いられる。傷みやすい獣毛より耐久性が高く安価な物も多いので毛の消耗が必ず付き纏う絵筆のコストの面でそのパフォーマンス性は高い。一つの毛で硬毛〜軟毛まで幅広い種類の毛の硬さを持つ。若干獣毛と比べると絵具の含みや筆を画面に押し当てた時に感じる弾力性やしなやかさ等の手に返ってくる感触が少ないが近年の合成毛の筆は獣毛の筆に迫る使いやすさに迫ってきている。
筆の穂先の形にも種類があり様々な形にカットされた物があるが特殊な描画法を用いない限りは、フラット(フラットな平塗り可能な四角いエッジの出せる標準タイプの平筆)、フィルバート(平筆の角を削ったエッジに丸みを持たせた自然なタッチを描ける筆)、ラウンド(習字の筆の様な細長いタッチの得意な丸筆)、面相筆又はスクリプトとスポット(細密描写またはサイン用の極細筆)、ファン(扇形のぼかし用の筆)辺りが筆のサイズ(0〜20号)毎に二、三本あれば大体の描画に対応出来る。それ以上の筆の大きさでは大型の刷毛を使用する方が塗りの効率は良い事もある。
筆もまた同一の毛の硬さやメーカー等の物を用いる必要は無く、状況に応じて多種多様な種類の筆を使っても良い。
・キャンバス
キャンバスは組み立てるにしろ完成済みの物を
用意するにしろ、素材が画布は麻布で木枠が杉材の物が一般的には良いとされる。これは保存・保管におけるアドバンテージが他の素材に比べて高いという事で特に描画の際に有利になる要素は少ない。他には桐の木枠や綿・ナイロンの生地の画布もあり、桐木枠は吸湿性が高く反りが硬い杉より生じやすい反面軽量なので扱いやすく、綿やナイロン生地の画布は麻布より耐久性が低いが織り目の粒が揃ったきれいな表面を持つ。個人的には麻布は他の布に比べて網目が深いので絵具を乗せた時の食い付きが良い様には感じる。
画布の下地塗料が水性塗料でなく油性塗料の場合は筆の滑りが変わってくる。油性地は絵具を弾きやすく滑りやすく、水性地は吸収性が高く絵具の食い付きが良い。下地塗料の違いは描き始めの油分の量による描画方法やスタイルの違いの為にあり基本的には油絵の描画法則である「少ない油分の上に多い油分を」というファットオーバーリーンの法則を守っていれば問題無い。
この三つは(習作ならともかく)本番の製作ではこだわった方が良い結果に繋がりやすいので初心者ほどこだわった方が上達は速くなると考える。