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キナクリドンレッドとは

キナクリドンレッドは二十世紀中頃に開発された新しい顔料であり、赤〜赤紫の真紅の色みを持ち(粒子の大きさや構造の違いで色みが変化する)、現代では絵具や塗料での使用でキナクリドンレッドやキナクリドンバイオレット(PV19)やマゼンダ(PR122)等の名で一般に知られ工業用途でも使用されている。堅牢性に優れない古い真紅色の顔料は現代ではキナクリドン系顔料や縮合アゾ系顔料に置き換わっている物が多い。

この顔料は元素の有機合成による化合物から成る。黄みの無い(微かに青みのある)純粋な赤色または赤紫色がこの顔料からは作られる(色料の三原色の一つの赤色のマゼンダと極めて近い色になる)。

顔料の種類の区分では、土性系顔料等の天然無機顔料や金属系顔料等の合成無機顔料や動植物等から成る天然有機顔料や顔料でない染料のそれらとは異なる、化学元素の化合から成る合成有機顔料である。キナクリドン系顔料は同じく合成有機顔料である緑・青系の色を持つフタロシアニン系顔料と同じく堅牢性のとても高い顔料および絵具である。

この顔料および絵具の特徴は透明度がとても高く有機顔料の特徴である強い着色力を持つ。他の顔料を混ぜない単一顔料での絵具の使用では透明度が高くメディウムに浸けると更に透明度を増した濡れ色の暗色になるので厚く塗り過ぎると暗く沈んだ深みのある暗色になる。その反対に薄塗りするとその極めて高い透明度で地の色を透かした反射光が明るく白いほど本来の色の鮮やかさを見せる。白と混色すると量に応じて(耐光性は落ちるが)黄みの無い鮮やか〜淡いピンク色になる。または他の顔料との混色制限が無いので、市販されている複数の顔料で調色した絵具の様に、白やその他の色と調色して淡い不透明な色や微妙なニュアンスの色の絵具を作るのに用いられる。

キナクリドン系顔料の赤色絵具は、不透明で黄みの赤色のカドミウムレッドやヴァーミリオン(合成無機顔料)やピロールレッド(合成有機顔料)等とは異なり、同じ透明度の高い真紅色であるマダーレーキやアリザリンレーキ(天然有機顔料)等と同じ用途であるグレーズ技法(透明の薄い重ね塗りの技法)に向いている。他の同じ鮮やかな赤の合成無機顔料と比べても耐光性は遜色無く強く(総合的な堅牢性では上回るかもしれない)、比較的安価な顔料である為に調色による代替品に用いられたり、欠点となる問題のある(毒性・変色・滲み等)安全性の少ない赤色顔料や廃番になってしまった赤色顔料に代えて用いられる事もある。代替的な用途以外にも無機顔料には無い色の鮮やかさを活かした現代的な色彩の絵具としてもその魅力は高い。

中心から右に白と混色/左に薄塗りした物
(上)(PV19)
(中)(PV19)
(下)(PR122)

耐光性・耐候性・耐酸性・耐アルカリ性・対溶剤及び耐水性等の点でも堅牢性のとても高い顔料である。毒性も少なく不活性な顔料なので気候や化学反応による変色の心配も少ないので安全性の高い顔料でもある。