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ローシェンナとバーントシェンナについて

シェンナ(sienna)という顔料及び絵具の名はこの顔料の元々の産地であったイタリアのトスカーナのシエナという都市の名前に由来している。そしてシェンナにはローシェンナとバーントシェンナの二つがある。ロー(raw = 生の)シェンナは黄土色の明度と彩度を少し落とした若干赤みを帯びた黄褐色であり、バーント(burnt = 焼き)シェンナは赤色焼成黄土(レッドオーカー)の少し明度と彩度を落とした赤茶色の褐色の色みを持つ。

シェンナは酸化鉄とアルミナ及びシリカ(珪酸アルミニウム)を主成分とする天然の土性系顔料であり、ローシェンナは同じ土性系顔料の黄土(イエローオーカー)と組成の殆どを同じくするFe₂O₃・H₂Oの化学式を持つ水和酸化鉄(含水酸化鉄)から成る。黄土との違いはコロイド性珪酸アルミニウムを多く含み、また褐色の色みの素となる微量の二酸化マンガンを含む点にある。バーントシェンナは生のローシェンナを焼成する事により水分が逸出して水和酸化鉄が第二酸化鉄になり色が変化する。アメリカやイギリスの色料の規格であるC.I.Name(カラーインデックス名)ではPigment BrownのPBr7またはPigment YellowのPY43となる。顔料区分の分類では天然無機顔料や酸化鉄顔料となる。加工の工程は黄土と殆ど同じ製法で作られる。

絵具化した顔料の性質として、含まれるコロイド珪酸アルミニウムにより同じ組成で不透明性を持つ黄土に比して半透明で透明度が高く被覆力(下地を隠蔽する力)も低めで、着色力は適度な中程度の強さで、含まれるマンガンにより乾燥の遅い油絵具においても乾燥性の良い絵具となる。耐光性(紫外線による色褪せに対する強度)や耐候性(熱や水分や有害な大気等による変色や破壊に対する強度)は全色において最高クラスの堅牢性であり、耐アルカリ性にも優れ(酸には敏感)、化学反応を起こしにくい不活性さを持つので他の色との混色制限も無く、毒性も無く、どの種類の絵具においても汎用的に広く使用されている。最も安価な部類の顔料及び絵具でもある。

描画の用途としては、原材料の入手しやすさや製造しやすさから西洋においては最も古い有史より使われてきたとされ、油絵具での使用ではその透明性から仕上げの上層へのグレージング(薄塗り技法)が適していて、またその乾燥性の良さから厚塗りでの使用も可能である。

このシェンナによる顔料及び絵具は、自然の土の色に近い中間色の色調を持ち、黄褐色の絵具として使いやすく、古代ではもちろん現代においてもなお重要な茶系統の褐色絵具の一つである。古典的な色調の作品や茶系統色の単色画では使用される割合が高く、また現代的な作品でもナチュラルな印象を与えるアースカラーとして好まれている。