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ローアンバーとバーントアンバーについて

アンバー(umber)という顔料及び絵具は産地であるイタリアのウンブリアにその名を由来しキプロス共和国のキプロス島が良質な産地として知られる。そしてアンバーにはローアンバーとバーントアンバーの二つがある。ロー(raw = 生の)アンバーは若干黄色みを帯びた暗褐色であり、バーント(burnt = 焼き)アンバーは赤茶色を帯びた暗褐色の色である。両者共に明度がとても低く黒に近い暗さを持つ。

アンバーは酸化鉄とマンガンを主成分とする天然の土性系顔料であり、ローアンバーは同じ土性系顔料の黄土(イエローオーカー)と組成をほぼ同じくしFe₂O₃・H₂Oの化学式を持つ水和酸化鉄(含水酸化鉄)から成る。黄土との違いで言えば暗い褐色の色みを与えている多量の二酸化マンガン(MnO₂)を含む点にある。バーントアンバーはローアンバーを焼成する事により水分が逸出して色が変化する。アメリカやイギリスの色料の規格であるC.I.Name(カラーインデックス名)ではPigment BrownのPBr7となる。顔料区分の分類では天然無機顔料や酸化鉄顔料となる。加工の工程は水簸や粉砕等を経て黄土と殆ど同じ製法で作られる。

絵具化した顔料の性質として、似た組成で高い不透明性を持つ黄土に比して、含まれるマンガンにより透明度が高く半不透明で被覆力(下地を隠蔽する力)は若干中程度になり着色力は適度に強く乾燥を促進するマンガンの性質により乾燥の遅い油絵具においても乾燥性の良い絵具となる。耐光性(紫外線による色褪せに対する強度)や耐候性(熱や水分や有害な大気等による変色や破壊に対する強度)は全色において最高クラスの堅牢性であり、耐酸性や耐アルカリ性にも優れ、化学反応を起こしにくい不活性さを持つので他の色との混色制限も無く、毒性も無く、どの種類の絵具においても汎用的に広く使用されている。最も安価な部類の顔料及び絵具でもある。

描画の用途としては、原材料の入手しやすさや製造しやすさから西洋において16世紀頃より使われてきたとされ、油絵具での使用では仕上げの上層への塗りでの使用に適している。下塗りへの使用ではマンガンを多く含むアンバーは上層に暗い滲潤(ブリード=滲み)を起こす恐れがあるという指摘も古い文献にはあるので下塗りには下地を被覆出来る不透明性が高い黄土によるイエローオーカーやレッドオーカー等または他の褐色を用いる方が良いと推察する。またアンバーは厚塗りが過ぎると皮膜の表面に油滴が浮いてくるとの指摘もあるので薄塗り〜平塗り程度の厚さの塗りで用いる方が良い。

このアンバーによる顔料及び絵具は、自然の土の色に近い色調を持ち、暗い色を作る為の暗褐色の絵具としてまたは中間色を作る調色にも使いやすく、古典技法ではもちろん現代の技法においてもなお重要な茶系統の褐色絵具の一つである。古典的な色調の作品や茶系統色の単色画では使用される割合が高く、また現代的な作品でもナチュラルな印象を与えるアースカラーとして好まれている。