過去に、屋外のスケッチで描いた油絵を描き終え持ち帰る時には絵具が乾いていたら良いのにと思った事がある。
とはいえキャンバスクリップでもう一枚のキャンバスを相向かいに四隅を留めれば乾いていなくても持ち運び出来るそれでももし乾いていれば誤って絵具が何処かに付着して汚れる確率は減るしほこりや塵も付きにくくなるので保管も楽である。
それならアクリル絵具かアルキド樹脂絵具を使うか超速乾メディウムでも混ぜれば良いのだけどそれだとすぐ固まってしまいキャンバス上でバター状の柔らかい油絵具を混ぜてぼかしながら描くのは難しくなるのでやはり油絵らしく油絵具で描きたい。
そこで絵具メーカーのホルベインから発売されているサーフェスコートという製品が発売されている。この製品は未乾燥油彩画面用コートと銘打たれていて未乾燥作品の持ち運びや乾燥待ちの保管のホコリ除けに使える様である。
この製品の塗布はスプレー缶の噴霧方式で、成分は合成樹脂とエチルアルコール、仕組みとしては未乾燥の絵に塗布すると溶剤であるエチルアルコールが20-30分で揮発して樹脂がすぐに固まり絵具の上に皮膜を作る事で未乾燥の絵具が保護される。通常の油性ニスには石油系溶剤が使用されるがこの製品の溶剤はアルコールなので揮発が速くすぐに固まる。とはいえ内部は未乾燥なのでこのニスを塗布しない場合と同様に内部まで乾燥するのを待つ必要はある。
二、三回に分けて薄く塗布を繰返した方が液垂れもしないし重ね掛けする事で光沢も出る。あまり分厚く塗布し過ぎない方が良さそうな気はするが。
注意点としては厚塗り(0.3mm以上)の上にこのニスを塗布しても触った時に下層の未乾燥の絵具が滑り動いてしまい覆う樹脂の皮膜が破れてしまう様である。もう一つ、描く際に油を加えるとその分乾燥が遅れる様でもある。通気性は他の完成ニスよりは高いとの事なので乾かないわけではないものの。
試しに油も何も加えないで少し筆を溶剤で濡らして不透明に平塗りしてこのニスを塗布して30分くらい置いてみたら、指で強くこすると少し粉状に絵具が付着する程度には保護されていた。厚塗りした部分は素の塗りよりは付着しないものの軽く指で押してみたらペースト状の柔らかい絵具が付着してしまった。一日経つともう少し硬くなった。
体感としては薄い平塗りに抑えるなら油絵らしく不透明なタッチでも持ち運びに支障は無いくらいに乾く様には見て取れる。
なので使い方としては下描きの際に使用するか下描き〜仕上げまで比較的薄い層を重ねていく技法で何度か描きに行ってその都度作業後に塗布して持ち帰るといった使い方が良いのかと考える。もしくは絵を完成させられる程度に薄い不透明な塗りで一度で描いてしまう描き方で。