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絵具のつや消し

油絵やアクリル画をやっていると基本は光沢ある絵になる。それでも良いのだけど、水彩画やパステル画やフレスコ画のようなツヤ消しの持つ色合いや質感の魅力を取り入れたいと考えている。かつ油彩やアクリルのような堅牢な耐久性を兼ね備えたような絵にしたいと考え、数年前から、つや消しの絵を研究している。

前述のように水彩やパステルなどはツヤが元々無いのでともかく、

展色材であるメディウムを多く含む絵具は、光沢のあるツヤが出やすい。メディウムのツヤの無さやその少なさによる、パステルや水彩のような顔料むき出しに近いざらざらした粗面とは異なり、そのメディウムの持つ光沢の度合にもよるが、顔料が多量のメディウムに包まれるほど表面が平滑になりツヤが増す。メディウム自体にツヤが比較的少ない物の場合には量が増えると半光沢の様相を呈する。

ツヤを出す方法はメディウムを多くすれば良い。アクリルなどの樹脂系絵具は加える量に制限は無い。油絵具は油を加え過ぎてはいけない。光沢のより強い種類の油を選択するか、光沢のある樹脂を加える。

そして逆に、ツヤを消す方法はいくつかある。

① ツヤの元であるメディウムを減らす。
この方法は顔料を支える展色材が減るので耐久性が落ちる。
水や溶剤などの希釈材で溶いて薄く塗ればツヤは減る。油絵具なら絵具をしばらく紙に乗せておく事で油分を絵具から吸わせて抜いたり、顔料を加えて油の絶対量を減らしたり、絵具の練り合わせの際に油を少なくする事などでツヤを減らす事ができる。
顔料がむき出しに近い状態になるのでパステルや水彩に相当近い、顔料本来の明るい色になる。
とはいえ、下描きやそういう描法として以外にはお勧めできない。これはツヤ消しというよりツヤ無しと言える。

② 蝋などのワックスを絵具に加える。
ビーズワックスとも言われる蜜蝋などを加えると穏やかなツヤ消しに落ち着く。蝋独特の半ツヤ消しになる。
蝋のワックス成分を加えると上塗りが剥離する恐れがあるので、絵の最上層に使うべきである。
油絵具では穏やかなツヤ消しという意味ではツヤの穏やかなマスチック樹脂を加える事もある。

③ 仕上げのニス塗りでツヤ消しニスを塗る。
これが最も一般的で無難な方法である。蜜蝋を加えたツヤ消しニスが古くから用いられている。
ツヤのあるメディウムを用いて描き、仕上げにツヤ消しのニスを塗る。
深みのあるツヤ消しになる。
メディウムとニスに厚く守られ安全である。現在観る古典的絵画のツヤ消しの絵はこちらであろう。印象派の油彩画のような色の鮮やかさとは異なる。

④ シリカを加える。
シリカという増量剤や練りの調節に使用される顔料を加える。
最近のツヤ消しの為のニスやメディウムはこれかワックス・蝋を使用している。
原理としては、ニスやメディウム中で透明になる顔料を入れる事により本来の色や透明な仕上げのニス層に影響を与えずに、表面に光を乱反射する粗面を作り出している。
通常のニスやメディウムは平滑で反射し光沢のあるガラスのような表面を持ち、ツヤ消しのニスやメディウムは反射しない光沢の少ない磨りガラスをイメージすると分かりやすい。
過度に加えるとメディウムの絶対量が減るので適度な量を加える。加えたシリカに見合う適切なメディウムも、ツヤが出ない程度に、耐久性を補うために入っているとベストだろう。

以上。

①と②の方法は注意が必要なので、
③、④の方法を勧める。

日本画・水彩画・パステル画・印象派、的なツヤの少ない絵を作る事が出来る。

日本人は比較的ツヤの少ない絵を好むと言われる。歴史的・伝統的ににツヤの無い絵具による絵が主流だったからと推測できる。金箔や漆というツヤのある素材はあったものの。

大昔のヨーロッパではツヤのあるほうが宝石のような高級感があるとしてツヤのある絵が好まれたと聞く。

描き手サイドで言えば、現代ではどこ国の描き手でもそういった国民性と画面の光沢の有無はそれほど関連性は少ないようにも感じる。
昔も色々な画材があったわけで、その当時ある国では、伝統としての光沢のある油絵がメインであったり、逆にツヤの出ない絵具による絵がメインであったりと、地理的距離と限られた国交と強固な伝統という縛りによる選択肢の少なさによるものだったのかもしれないと考える。
美術史的にも、伝統からの解放や国交の広がりからか、印象派あたりからツヤ消しへの嗜好の変化を感じる。

マットなツヤ消しの画面は落ち着いた鑑賞の効果を与える。反射もなく見やすいメリットがある。
逆に光沢のある画面は色の鮮明さが際立つメリットがある。

こんな研究しなくとも、ツヤ消しを求めるなら、ガッシュやパステルなどでも良いのだが、表面の顔料がこすれ落ちたり傷ついたりするので、耐久性を上げるなら③、④の方法を取る方が良いと考える。

どちらを選択するかは描き手次第。

製作的観点からか鑑賞的観点からか、はたまた両方からか、
個人的には、例えば、現実の物体を描く時にはツヤは見えないので、ツヤ消しを選びたいと考える。