今までいろいろな画材を、油絵具、透明水彩絵具、不透明水彩絵具、パステル、アクリル絵具、色鉛筆、クレヨン、マーカー、さらにはCGを試し、製作に用いてきた。
ある画家の著作物で、筆を選ぶ時は自分の腕のように動く筆を選べ、ギブスをつけた時のような動きの筆では駄目だ、という一文を読んだ事がある。
何かをする時は何らかのツールを有形無形を問わず用いる。それは言葉なのか絵筆なのか己の肉体なのかそれとも頭脳なのかもしれない。
その相棒ともいえる最高のツールを見つけ磨く必要があると考える。己の思考を実現する為に。
自分は、紆余曲折を経て現在アクリル絵具をメインの画材として使用している。
何故かといえば、
それはタフさ、質感、自分にとってのダイレクトさ、
にある。
一つの目のタフさについてまとめると、
褪色や剥落を促す物理的な衝撃や紫外線などに対し他の絵具より強い事。
自身においても顧客においても保存・管理を容易にする。
技法面での強さとして、新たな表現をしようとした時に技法上の制限が油絵具に比して少ない為、新たな地平を開くようなタフな使い方がしやすい。
そのタフさを詳しく言うと、
つまり耐久性にある。絵を構成する土台のキャンバスや紙、そしてその上に絵具がある。これらは光が含む紫外線や熱や周囲の有害な大気はもちろん酸素などの通常の空気や空気中の水分、物理的な衝撃によって経年変化や変色をもたらす。そして絵具の剥落や褪色、支持体の損壊につながるケースもある。
作品であると同時に製品でもある。プロであろうとするなら表現の土台は確実にすべきだと考える。
絵の耐用年数も絵の価格を決める要因のひとつになる事が多い。支持体の強さで言えばその強度から紙よりも布を木枠に張られたキャンバスが強い。絵具で言えば、まず色の素である顔料の質とその量が絵具の種類によって違う。そしてその粉状である顔料を絵具として半液状の流動性を持たせ顔料を包み光や大気から守る役目も果たす媒体となるメディウムの耐久性に違いがある。その中で最も強いメディウムと光に強い顔料を多く含む油絵具とアクリル絵具が最も耐久性がある。その逆に顔料が剥き出しに近い水彩絵具やパステルは光に弱い。故に、絵具や支持体というジャンルだけで単純に比べると油絵具やアクリル絵具を使用したキャンバス作品が紙の作品より、保管などの際の対衝撃性や耐候性などにおいて強い為に、一般的に価格が高くなる傾向にある。
作品の質は耐用年数で決まるものではないが、芸術性を一旦置いて、製品の性能としての価格を考えた場合は概ね耐久性も加味される。そして芸術性などの作者の技量や市場における位置づけ等により変わってくるのが市場では一般的だ。(さらに巨匠に至れば美術史的、歴史的価値が加わる。)
もちろん初期設定の価格が高いからキャンバスとアクリル絵具を使うのではない。生命ではないが一つの性格を得た作品に長生きしてもらいたい事と後述する幾つかの理由によるものだ。キャンバスは個人的には石板に描いているような感覚も好きなのだが。
とはいえ、自分の表現に合う絵具を使えば良いのは当然で、手段が目的になっては元も子もない。各種絵具によって描かれた持ち味の良さは甲乙比べようがない。つまりその素材の物性を充分に引き出せば良いだけと考える。作品の表現の為に最大限に、製品としての耐久性の為の充分な。
油絵具はその正しい使用法のもとには作品を約六百年保つ事を古典絵画が証明している。
アクリル絵具は歴史が約七十年と浅く、これからの経過観察も必要だが現代化学がその分子レベルの理論を以って証明している。
しかし経年変化は自然の成り行きでもあり、管理によるところが大きい。直射日光や高温多湿を避けた環境を整えれば、上述で耐久性の比較はしたものの絵具全般に使用される顔料や支持体自体は印刷物などよりは強い物が多いので長持ちはする。染料や弱耐候性の物はその限りではないが。
近年は紫外線を減らした展示用照明もある。良い環境で保持されるに越した事はないが、その逆も想定する必要もある。
化学的な耐久性の強さは自身の手を離れて顧客の手に渡っても管理を楽にする。油絵具は化学的な変化が激しく外的な要因にも内的な要因にも良くも悪くも繊細なのだ。アクリル絵具もそれなりには気を使うが。
油絵具との耐久性の差でいうと、アクリル絵具はその柔軟性にある。これは対衝撃に強い事を意味する。参考文献によると油絵具は蒸発による乾燥ではなく化学変化をしながら固まる。そして次第に何十年もかけてコチコチに固まるとともに柔軟性が失われ絵具の重ね具合や塗り如何によってはひび割れを起こす事がある。そのため樹脂を適度に油と絵具に混ぜる必要がある。しかしそれは作者まかせになる為に作品によりけりになる事が多い。油は多過ぎても黄色く変色する、少なくても顔料が剥き出しになり表面の強度も耐光性も弱まる。アクリル絵具は文字通りアクリル樹脂だけが基本的に入っているので、ばらつきなく柔軟性を持つ。
もう一つは有害な顔料と、有害な大気やある組合せによる混色で変色する顔料が少ない事。環境や人体に優しく、かつ昔と違い現代の有害な大気の多い環境を考慮するならば。
しかし有害な大気による変色は仕上げ用ニスを塗る事により抑える事が可能だ。有害な反面、天然顔料だけが持つ色の美しさや乾燥を促進させるような働きも持つ、その逆もあるのだが。
そして、
実験的に耐久性を考えつつも新たな地平を開くような技法を試そうとした時、アクリル絵具は混色や手順の制限、経年変化による予想外の危険性も少なく、その種のタフさもある。
しかしながら当然、油絵具もマテリアルとして優れている。起源が異なり別種の絵具ではあるが、ここでは現代において双肩を為している絵具としての比較だ。あくまで示した差異はその物性の比較に基づいた個人的な選択による。もちろん油絵具も好きなのだが。
ひとつ目の理由はそれらのタフさにある。
しかしこれはまだ理由の序章にしか過ぎず、表現する為のマナー、エチケットと考える。
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