アクリル絵の具を使う理由②

前回の記事 アクリル絵具を使う理由①

アクリル絵具を使うふたつ目の理由は、

乾燥後の絵具の皮膜の質感にある。表面の材質感、マチエールとも言い換えられる。

絵描きは意識的にしろ無意識的にしろ自分に最も合うマチエールを選択・追求する。ざらざらした粗い、光沢のあるつるつるした、しっとりとした深い、など個人によって違い、色彩や構図の選択傾向よりも複雑でさらに多い。色彩感覚が寒い地域と温暖な地域で違う傾向があるように、生まれ育った環境によって形成されるように考えられる。

そういうこともあってなのか、いつも定型として知っていた絵具に違和感を感じていたので、他の既成の絵具を試したり、安定性や耐久性を考慮しながら自らメディウムを顔料や絵具と練り合わせて数年前まで研究していた。

いろいろ試した結果、艶のないマットなアクリル絵具が自身の求めるマチエールと合った。同時に次いで求める耐久性も得られた。
艶消しのアクリル絵具のひとつに不透明のもので、アクリル絵具とガッシュという不透明水彩絵具との、合いの子である発色の綺麗なアクリルガッシュという絵具がある。しかしアクリルガッシュではメディウムが少なく顔料がむき出しに近く表面に傷が付きやすいので、それではなく通常のアクリル絵具に艶消し剤を調合した、強い耐久性と顔料が多く質の良いアクリル絵具を用いる事にした。幸いにも市販の専門家用絵具と艶消しの調合剤の組合せを調整して用いる事で実現できた。

油絵具を除いた他の絵具ではいささか物足りなさや違和感を感じた。日本画は専門外なので何とも言えない。
あくまで個人的な感じ方なのだが、
通常のアクリル絵具では艶と深みがやや多く、それらを含めたその皮膜のマチエールは水の屈折率のように透明でしかしやや冷たく人工的と感じた。とてもソリッドな。 油絵具はその力強さや耐久性に今も惹かれるが、皮膜の持つマチエールの深みや艶がアクリルとは逆に熱く苦しく感じられた。それは油の屈折率による水とはまた違った透明性のなせる深みだと考えている。逆にそのような地の底からうねるようなパワーが魅力なのだろう。
そう感じられたのは自身のマチエールに反していたからだと考える。心と行動が矛盾を起こしていたからだ。他者の絵を見る分にはその違和感は起こらない。
アクリルガッシュではない市販の通常の艶消しアクリル絵具もあったが、これもやや人工的な深みを残すと感じた。人工的が悪いのではないがその部分が少し目立つほどの強さを感じた。
油絵具に艶消し調合剤を用いても艶は抑えられるが燃えるような深みは変わらずだった。しかし通常のアクリル絵具をメディウムが顔料を包み適度な耐久性を得る程度の適度で自然の艶消しに、そして半不透明に微調整することにより冷たい水というよりは熱くも冷たくもない水、もしくは空気のような自然さ、もしくは色だけの艶や深みの物性の少ない中立の状態になった。

心ではモヤモヤと分かっていたのだが、空気のような自然に感じられるマチエールと試行錯誤に耐えてくれるタフさを求めていた事をこの時に言語化出来るほどはっきり理解した。後述するがこの事は三つ目の理由とリンクする。
心と行動が矛盾していると120%の力が出せないように、表現の為に自身が使用するマチエールへの違和感を解決し一致させる最適な絵具を探る必要があった。

その解が独自に微調整したアクリル絵具にあったのが二つ目の理由だ。

またまた長くなるので③に続きます→

※ 特に油絵具から感じられるマチエールの感覚は、西洋よりも描画材や生活において油というものを使う習慣が少なかった日本人のDNAに起因する気もする。もちろん自身の環境も。とはいえ油絵具を嗜好する人もいるのでその限りとも言えない。ファーストコンタクトで好きになる人もいるだろうし、慣れや習熟でそれをベストと感じる人もいるだろう。しかし技法の手順や使用後の後片付けや作品の管理などの難しさ・煩雑さ等の理由ではなく、そのようなマチエールや素材の材質感に対し似た理由で他の画材を選択する人もいる。それを魅力と感じるか避けるかに良し悪しがあるわけではないが。

アクリル絵具を使う理由③