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絵具の技術の限界を知る事

アクリル絵具は油絵具に比べ、技法に関する参考書籍が少ない。自身の見立てでは多く置いている書店でも30〜50冊中2、3冊の割合である。最近はチェックするだけで買う事が殆ど無いが、ついつい見てしまう。最も多いのは透明水彩絵具の書籍だ。書店などの棚を見てもらうとよく分かる。

プログラミングの本で言えば人気のある言語の書籍が多い。プログラミングの場合は需要及び開発者数そして人気などの要素が書店の参考書籍の棚における割合に連動しているように見える。不動のC言語とJAVA、今でいえばiPhoneとAndroid関連と言ったところが多い。

洋画と言われる絵画ジャンルには油絵具の使用者が多く、その逆に現代美術のジャンルではアクリル絵具の使用者が同等か多い傾向にある。油絵具は約五百年前から現在に至るまで使われ、アクリル絵具は二十世紀アメリカ発の現代美術に多用された事も現在の使用者数の傾向に影響を残しているように見える。なので決して人気も使用者数も少なくはないのだが今ひとつ絵画用画材として世間一般には浸透していない。一見して何の絵具か判別できるという事でなく社会一般の認識として。絵をやってます。油絵ですか?という流れに似たような。使われてきた歴史や名画の数の割合を差し引いたとしても。

書店のジャンルごとの書籍の割合は、企業使命として文化を担う品揃えをする面もあると推測するが、利益も上げる為にある程度の人気や需要に応じた品揃えになると考える。それらジャンル内のさらに細分化されたカテゴリ群にも適用されるだろう。
とすればアクリル画の技法の書籍は多くても良いと思うのだが。

書籍が少ないのは厚く塗れば油絵具のように、薄く塗れば透明水彩絵具のように使えるという代替性に起因すると考える。違う素材なので当然だがどちらにもなりきれない。どちらかに似せる使い方をしても使用感や使いやすさは、もし比較するなら劣ると考える。オリジナルの良さにはならない。
もちろん油絵具や透明水彩絵具は入門にあたって取り組みやすく習熟すれば一般によく知られた伝統的なイメージのいわゆる絵画が描ける事もあると考える。(参考書籍や指導者も多いのでなお。)
そのイメージがあるとアクリル絵具を使うと乾燥の速さや発色の強さ等に戸惑うのだと考える。それ以前に世間一般のイメージに認識として定着していないので、絵を始める選択肢に入りづらいのかもしれない。 なので油絵や水彩からシフトしてアクリル絵具を使うケースが多いと考える。

とは言え、
絵を描くとは絵具で下地を覆うという行為とも言える。その形態として厚く塗る、薄く塗る、重ねて塗る、混ぜながら塗る等があり、その点は絵具全般で共通する点が多い。
しかし各自の絵具の各々で違う特性がその絵具の特徴を作る。その点で言えばアクリル絵具は透明水彩絵具とも油絵具とも異なる。

アクリル絵具の描画上の最大の特徴は乾燥の速さによる素早く自由な重ね塗りと考える。
薄くは塗れるが、透明水彩絵具のような少ない樹脂量からくる剥き出しに近い絵具にする前の粉状の顔料自体の発色に近い綺麗な塗りはできない。油絵具のようなゆっくりした乾燥速度を利用した塗りはできない。
とすると、その差を自覚すれば透明水彩絵具や油絵具のようには使えず独自の使い方になる。代替でなく最大限に活かすならば。
その差は長所にもなり短所にもなる。特徴とは概ね一枚のコインの裏表の顔を持つ。万能はない。そこが面白くもある。組合せのパターンを考えたりすると。

なので独自性と長所となる特性を活かした技法を開発する事が重要だ。習うだけでなくこれから自身で開発できる技法もあると考える必要もある。

技術の限界つまり出来る事を知る事が重要で、そこから工夫は始まり表現も始まる。

天井を知り、さらにそこをぶち抜く位がちょうど良いのかもしれない。

自分に出来るのは良い絵を描いてこんな使い方も出来ると言葉も用いながら示すしかないと考えている。

※ 最近アクリル絵具の技法に関する書籍の新刊を見る。十年以上も前の重版もある位なので「おっ!」と驚いた。アクリル絵具自体の売場の占有面積も大きい。描き手は昔から多くいる。世間一般にアクリル絵画が広がるのは時間に任せても大丈夫かなとも思い、杞憂かもしれないとも思う。
絵具メーカーによる遅く乾燥するアクリル絵具や水で溶かせる油絵具など開発が目覚ましいので色々な物性を活かした技法が開発されると期待もしている。