絵を描いている時、使用した絵具と筆の跡が、キャンバスや紙以外にも、パレット上に残る。
当然ではあるが、絵を描きあげた時のパレット上の痕跡は作品とどこか似ている。
まるで形をなさない抽象画のようであるのに。具象抽象問わず。
絵を描き終わった後、通常はパレットを掃除する。油絵具の場合はしばらくは乾かないのでパレットを掃除しない画家もいる。
まだ乾いていない流動性のある余った油絵具ならば、その後しばらくの間は再度使用しても問題はない。色ごとに油絵具には乾燥差があるので、例えば最初の塗りが乾燥する前に、その上に最初の塗りより乾燥があきらかに速くなる乾きかけの余った絵具をのせないようにはすべきだが。
(覆われた下の塗りが乾かなくなる事と、覆った上の塗りのひび割れや剥落をもたらす可能性がある。)
油絵具は特に化学変化による微妙な乾燥を要するので、やはり使用するその都度、余った絵具でなく新しい絵具を使うにこしたことはない。過敏になることはないものの、極端に乾きの速い絵具と遅い絵具がある事と、上に塗る層は油や樹脂をより多く含ませる事により下層の塗りより乾燥を遅らせかつ柔軟性を高める必要がある。当然、その時も下の塗りが充分に乾いてから塗る。
自身が油絵具を使用していた時には、白地のキャンバスにあわせた白色のパレットを使っていたので、パレットの白地を活かす為に使用後は絵具を残さないように手入れしていた。
現在は自身はアクリル絵具を使っている。
アクリル絵具は掃除をする間もなく速く固まるので、パレットに積み重なっていく。アクリル絵具のパレットには白の下地材を塗ったアクリル板を使用しているので、使った時に残った絵具がアクリル板のパレットに一体化していく。下の塗りとの化学的な反応は油とは違い、塗ったそばからほぼ完全乾燥してしまう速乾性と、絵具を形成する樹脂の層同士にも若干通気性のある水分の蒸発乾燥によるアクリル樹脂なので、層が重なったとしても、剥落やひび割れなどの心配はキャンバス上でもパレット上においても無い。絵具を実際キャンバスに塗る時は、塗る色味が透かされる下地の色に影響されるので、キャンバス上に置く混色する色をパレット上で正確にシミュレーションする為に、絵のベースとなるキャンバスの下地の色に合わせた白い絵具でパレットを下塗りしておく。キャンバスは色で埋め尽くされ白地は無くなっていくものの、それでも下地の影響は大きい為。
(茶色いキャンバス下地ならパレットは通常の木の茶色いパレットであるように。)
なので自身はパレット上には絵具の使った軌跡はあまり残らない。
とはいえ、描き終わった直後は使用した絵具の跡が色とりどりに残る。
全ての絵描きに言えるが、それらのパレット上の軌跡はまるで抽象画ようになる。キャンバスに描いた絵の色の構成要素がパレット上に集積する。
それらはどの色を使うか等の意図を持って構成したパレット上の配色による、キャンバス上の描写の結果が作る半ば無意識に近い色の集積となる、パレット上において。
(もちろん色の濁りを避けたり、必要となる色の量にあわせたパレット上での色を混ぜ合わせるスペース等の描画時における考慮はするものの。)
巨匠のパレットを稀に美術展で目にする事もある。自分のパレットや他人のパレットを見ても、
アウトプットである出力の最終リリースポイントである為、使用方法の考え方の違いが絵と同様に表れるのがパレット上に見て取れる。
パレットは絵描きの第二の頭脳のように思える。
そのパレット上のイメージは美醜を超えた作者の思想や哲学も見れるのではないかと考える。
けっして公式には発表されないが、絵描きのパレットはある意味、裏の作品とも言えると考える。
そして、絵が描かれるたびに消える儚い作品とも考える。