フェルメールの絵画で代表的な技法と言えば、
・ポワンティエ
・ラピスラズリの使用
・トローニー
・カメラオブスキュラ
・寓意画
・静謐な画風
が主にある。
・ポワンティエ
ポワンティエとは小さく光る光沢のハイライト部分を明るい色の点描でその光を表現する技法。お針子の針立ての針の光沢や瞳の光沢や注がれるミルクの雫等多々使用されている。
・ラピスラズリの使用
群青色の様な深い透明色である青紫色。当時は金と同等に取引された価値の高い瑠璃を砕いた顔料を用いた天然のウルトラマリンブルー。希少価値と共に当時の絵画が黄・赤・茶褐色や黒系統の色使いが主流であった事もありその青の巧みな配色技巧で取分け類を見ない色彩豊かな絵画となる。真珠の耳飾りの少女のターバンの色が中でも有名である。
・トローニー
トローニーとは想像で描いた架空の人物像の人物画である。練習の為の習作でよく描かれる。フェルメールの人物画(の習作)にも見られる。
・カメラオブスキュラ
カメラオブスキュラとはピンホール及びレンズの付いた暗室の役目を果たす箱型の投影装置。投影を紙になぞる事により下絵として写し取る事が出来る。この装置を中世において一部の画家も使用していた様でフェルメールも使用していたのではないかという説もある。
・寓意画
寓意つまり何らかの逸話や神話等の見立て。話の内容に関連するモチーフ等を画中に取り入れてその物語の示す所を画中で表す手法を用いている。フェルメールの場合は実在する日常の風俗の絵を主に描いていたのでそのモチーフの構成の中にその見立てを取り入れて表現している。
・静謐な画風
フェルメールと言えば静謐とよく形容される。静かな光の中で時が静かに空気と共に流れているかの様な絵のスタイルは同時代の風俗画の賑やかさとは一線を画している。モチーフに向き合う事を主とし、劇的なドラマ性のある神話や聖書等の歴史画を描いていない事もその画風を形成している。バロック期のダイナミックな画風の多い中でこの画風に辿り着いた事は特筆される。ただの風俗画を超えた神性を帯びているその画風は。
大雑把に知り得る技法を書き連ねてみたがこれらは手法であって実際にどの様な絵具や画用液を使用していたのかはラピスラズリ以外は確実に断定出来ない。彼自身画家の他に仕事を持ち寡作だった為に謎も多くそれこそ絵画の絵具層や使用していたパレットを化学分析でもしない限りは。ただ当時の一般的な絵具等の使用状況や古い記載から推測すると合成化学による合成顔料が発達する18世紀以前なので古典的な顔料の色を使用していたのは明らかだと考えられる。鉛白、各種土性系顔料、古典的な金属系無機顔料・植物系有機顔料が考えられる。画用液も画家の商業組合のギルドもある程に徒弟制の根強く残っていた社会なのでおよそ当時の伝統で用いられていた物がある程度どの画家においても似た共通した方法で制作されたとすると当時の古典的画用液(加工油+天然樹脂をベースとした物)を使用していたと考えてもおかしくはないと考えられる。
参考にした資料から後述として、
20世紀初めのドイツの画家およびドイツの絵画材料の化学技術者の改訂による絵画技術に関する有名な著書に短文ではあるがフェルメールの使用した画材に言及している箇所がある。要約すると天然樹脂と濃縮加工油による粘りと伸びのある粘性の高い溶液をメディウムとして使用し、単色による下描きから始めてメディウムで滑らかさや透明感を与えながら薄い塗りを重ねていったとある。この説は若干著者の支持する持論に偏ってるともこの本を読んでいて思うところもあったが17世紀のバロック期の制作方法や代表的な絵画を考えると粘性の高い古典的な画用液を使用していたとするのは間違いでは無いとも考える。また同著書の画家である日本語訳者の訳註によると、白(鉛白+白亜)や黄褐色・暗褐色・黒に乾性油と膠等の蛋白質をメディウムとして地塗り及び地透層(インプリマトゥーラ)を何層も重ねていると記されている。顔料には鉛白、黄土、鉛-錫-黄、インド黄、赤色黄土、朱、茜レーキ、スマルト(花紺青)、アズライト(岩群青)、ラピスラズリ(天然ウルトラマリン)、緑青、緑土、黒色に木炭粉が用いられているとある。実際の描画の段階では油のみが使用されたとも言われているが訳者はそれに関しては断じてはいない。