バーミリオンは赤色顔料の一つであり、朱色である黄色み掛かった鮮やかな赤の色を持つ顔料である。他にもイングリッシュバーミリオンやチャイニーズバーミリオン等の幾つかの呼び名がある。
工業的に製造されるのは水銀の産出国でもある旧ユーゴスラビアにて十八世紀からとなるが、古代(紀元前〜十世紀以前)においても(ローマやポンペイを始めとした)欧州・南米・中東(エジプト等)・中国・日本等の世界各地でこのバーミリオンを用いた朱色は製造され高価な顔料及び絵具として壁画や装飾や巻物等に使用され、十九世紀に安全性や使いやすさに優れるカドミウムレッドが開発されるまでバーミリオンに代わる不透明で彩度の高い赤色顔料は無かったので重宝されていた様である。
この顔料は、天然の暗赤色の鉱石である辰砂(しんしゃ=日本では丹(に))を水銀の原材料とする。有史における黎明期の鉱石を粉状に砕いて顔料にする方法の他に、人工的な製法が主流となった古代〜現代では基本的に水銀と硫黄を化合して顔料である硫化水銀(HgS)が生成される。製造方式には、古代〜中世では水銀と硫黄の化合物の焙焼を以て昇華させる乾式の製法と、中世〜現代で主流となった水銀に硫黄や苛性ソーダまたは五硫化ナトリウム等を加えた化合反応による沈殿物を集める(幾通りかの)湿式の製法があるとされる。
性質としては、絵具化されると粘り気もあり不透明性が高く着色力も強く、顔料の粒子径も大きく比重もあるので重さのある絵具となり、毒性は極めて高く、油絵具にした時の吸油量は少なく済み、乾燥性は油絵具では乾燥が遅く水性絵具では速く乾き、乾燥後の皮膜は耐酸性/対アルカリ性に優れるが王水(塩酸と硝酸の混合液)には溶解し、耐光性は基本的には高いが水分と太陽光等の光の熱により黒変の化学変化を見せる恐れがある為にそれらを踏まえると耐光性/耐候性は共に堅牢性は高くなく絵具として用いた場合には絵の表面に仕上げの保護用のニスを塗布する必要があり古典絵画では仕上げニスの保護をより強固にする為に仕上げニスの前段階である描画中の上塗りにて乾いて重ね塗り可能になったバーミリオンを使用した塗布面にアリザリンレーキ等の透明色である赤色絵具でグレーズ(透明な薄塗り技法)する事で光の透過を抑える技法を用いており、また製造における(水洗処理の)精製が不充分な場合には残存した硫黄成分により鉛や銅の顔料の絵具と混ぜると化学変化が起こり黒変する恐れがある(充分に精製された顔料では起きない)とされる。
水性絵具では変色が起こりやすいので主に油絵具で用いられる事が多い。また前述した様に現代でも一二を争うほどの高価な値段が付く絵具でもある。市販されて店頭にある一般的なスタンダードクラスの専門家用絵具でも扱うシリーズは見た事が無く例えば油絵具ではハイエンドクラスというべきシリーズである、ホルベインの油一、クサカベのミノー、または個人的に愛用しているblockxシリーズで確認した事があるくらいである。