水彩絵具とアクリル絵具の違いとは

水彩絵具とアクリル絵具の違いとはどの点にあるのか?

水彩絵具とは現在では一般的に水で溶いて使用する透明水彩や不透明水彩(ガッシュやガッシュを安価にしたポスターカラー)の絵具の事を指す。アクリル絵具も同じ水性絵具の一つである。

それら水彩絵具とアクリル絵具の大きな違いはと言えば、

・展色材(顔料の練り材)
水彩絵具は主に水可溶性を持つ樹液による植物性のアラビアゴム等の糊材の展色材(メディウム)を顔料を固着させる接着剤(バインダー)として使用する。アクリル絵具はアクリル酸とエステルを化学合成し水溶性用途に乳濁液状化したアクリル樹脂を使用する。共に絵具を薄める希釈溶剤には水を用いる。

・耐水性
絵具が乾いた時すなわち水分が蒸発した時、アクリル絵具は樹脂内の分子同士が固く結合するので水に完全に溶けなくなる耐水性を持つ。水彩絵具は乾燥しても再度水に溶かす事の出来る可溶性を持つ。この点が水彩絵具とアクリル絵具を使用する際において最も両者の違いとして大きいと言える。

・耐久性
自然に起こる経年劣化(褪色・変色・剥離・亀裂等)や物理的な急な外部からの衝撃に対して、アクリル絵具は数百年の歴史を経て耐えて来た油絵具に比肩し得る耐久性を持ち(カドミウム系顔料の色の絵具等の一部除く)、逆に水彩絵具はとても繊細である。絵具の耐久性の指標となる耐光性(紫外線による褪色に耐える強度)や耐候性(光や水分や有害な大気等に耐える強度)においては絵具の顔料を保護する役目もする展色材の量や性質(硬さや弾力性等)が大きく影響する。加えて描かれる紙や画布や板等の土台の耐久力も関係する。

・塗りの厚さ
水彩絵具、特に透明水彩は細かい顔料と水で薄めた低濃度の塗りによる透明性が特徴なので必然薄い塗りになる。不透明水彩においても多めに含有する顔料やその他の白色顔料により不透明性が高められており同じ面積を塗り潰すのに他の絵具と比べてさほど量を必要としないので薄い平塗りになる。共に展色材の強度により厚く塗りすぎるとひび割れ等の亀裂を生じる恐れがある。透明性の高い薄塗りやフラットな平塗りをするのには水彩絵具の方が向いていると言える。
水彩絵具では筆で絵具を混ぜる感触がさらさらしてるのに対しアクリル絵具は樹脂により粘り気があるので水で強く希釈しない限りは厚みのある塗りになりやすく油絵具的な塗りの厚さと水彩絵具的な塗りの薄さどちらか又は双方を活かした使い方のバリエーションを持つと言える。アクリル絵具は含まれる樹脂が厚塗りにも耐える強度を持つ。

・付属する他のメディウム
色材となる絵具以外に、水彩絵具は基本的には絵具単体を水を希釈材としてそのまま使うのが主である(界面活性剤や遅延剤もあるが)。アクリル絵具もそのまま単体で使用出来るが絵具表面のテクスチャ(質感)や使用性能をアレンジさせるアクリル樹脂による専用のメディウムを様々の用途に応じて使用する事も多い。

・支持体
支持体とは絵具を乗せる土台つまり何に描くかという事であるが、現代では水彩絵具はほとんどが画用紙や水彩画紙等の紙に描かれる。アクリル絵具は接着力が高いので紙はもちろんキャンバスや板やプラスチックや金属や石等の様々な素材にも描かれる(物によっては下地処理をした上で)。

・発色
水彩絵具は顔料を包む展色材が少ないので顔料そのままに近い明るい色を発する。アクリル絵具は顔料が多い量のメディウムに包まれているので顔料に当たる光が展色材を透過して顔料に当たり反射して色光として我々の眼に返す際に若干濡れた色の様な暗い深みを帯びる。絵具が乾燥した後にその両者の違いはより顕著になる。

・透明度
透明性については前述の通り、透明水彩はその水で薄めた顔料の濃度の低さにより高い透明度が生じ、アクリル絵具でも透明水彩と同じく濃度の薄い塗りでも透明性が生じ又は透明なメディウムを加える事で厚い塗りを保ったまま透明水彩とは異なる種類の透明性を生じさせる事も出来る。
不透明性については、不透明水彩絵具では顔料の割合を増やすか白色顔料の一つである体質顔料を加えて不透明性を与えているので隠蔽力・被覆力の高い不透明な絵具となる。アクリル絵具の不透明性については不透明水彩ほどではなくその絵具の顔料(調合色は除く単一顔料の)自体の持つ不透明性によるところが大きい(アクリルガッシュ以外の通常のアクリル絵具は透明色と不透明色が油絵具と同じく混在している)。

・技法
透明水彩や不透明水彩にはそれぞれの特性を活かした確立された技法が存在する。アクリル絵具は水彩や油彩やその他の技法を模した様々な使い方の技法が存在する。グレーズによる重ね塗りやウェットインウェットのブレンディングによるグラデーション等の共通する技法を用いるが頻度や目的が多少異なる傾向が見れる。

・乾燥速度
乾く速さは両者とも水分蒸発によるので数分程度で乾く。アクリル絵具は厚塗りの場合は内部まで完全に乾燥するまで2,3日掛かる場合もある(表面だけ乾く指触乾燥はするが)。厚く塗ればそれだけ時間が掛かる。逆に薄く塗れば速くなる。

・保存
水彩画は耐光性・耐候性や絵の表面や支持体は繊細な物なので注意を要する。アクリル画は場合によっては油絵より耐久性が高いとも言えるので安全性が高い。とはいえ絵の保管は絵具の耐久性もさる事ながらむしろ環境の方が重要な要因ではある。

・仕上げニス
アクリル絵具は仕上げに画面保護のニスを塗る。水彩絵具もその様な仕上げニスはあるが水彩絵具特有の明るいつや消しの発色を損なうのを嫌う場合はニスの塗布をしない場合も多い。その場合は額縁の表の嵌め板に透明なガラスかアクリル板が欲しい。

個人的にはアクリル絵具を水彩絵具風に使ってみると透明水彩風に使ったとしても含まれる樹脂の違いからか少し発色が落ち、不透明水彩風に使っても完全な不透明さでなく、幾分か樹脂によるクリアな深みの様な透明感を感じる。